「ストリングって、乾電池と同じ」と思って!
ストリング面の反発性は、「伸縮」がエネルギー源
「あっ! また切れちゃった。今年、6回めだな……」
「あら、私なんか切れないから、8年くらい張りっぱなしよ!」
いくらなんでも8年はないでしょうけど、こうなっちゃうと「なんだか最近、飛ばなくなった?」という変化もありませんから、まったく気にならないんでしょうね(笑)
「ずっと飛ばない状況が続いている」わけですから。
だけど、ストリングには「賞味期限」があることを知ってください。正しく言うなら「性能寿命」。たとえ外見的には変化がなくても、ストリングは「張られた瞬間」から性能低下のスタートボタンが押され、たとえ一発もボールを打たなくても、ある時間が過ぎると、ストリングの性能寿命は尽きるのです。
それをご理解いただくためには、まず「ストリングがボールを弾き返すポテンシャルエネルギー」について知ってもらう必要があります。ストリングというのは、見た目にはなんの変哲もない「網」ですが、この「網」が「面」としての弾力性を持ち、それがボールを弾き返す「反発力」となるのです。
そして、その「反発力」の素となるのが「ストリングの伸縮性」です。ストリングは、ボールが当たった瞬間の「千分の4秒」くらいの間に、「伸びて」「縮む」という動的反応を起こします。その時間は短く、伸縮量は小さいため、肉眼で捉えることはできませんが、「トランポリン」はみなさんご存知でしょう? 物体や人間が落ちてくると、面がギューンと凹んで、次の瞬間にはビューンと押し上げる。
インパクト時のストリング面は、あれとまったく同じ動きをするのです。テニスの場合は、それに加えて「ボールの潰れ→復元」という効果が加わって、ボールはさらに勢いよく飛び出します。
トランポリンの反発面は、伸縮性のあるシートを、枠からたくさんのバネで引っ張って支えます。コンパクトな簡易型トランポリンでは、伸縮性のあるゴム状のシートを枠に張っただけのものもあります。どちらも『伸縮性のある……』というのがキーワードです。
同じシステムのストリング面にも「伸縮性」が必要であり、それを賄うのが「ストリング1本1本の伸縮」なのです。そして、ストリングの伸縮性能は、時間経過とともに低下し、さらに強いインパクトのたびに(弱くてもね)伸縮力を消費するのです。
だからストリングの伸縮性は「エネルギー」……乾電池といっしょです。
電池という個体は消えることがありませんよね。ストリングも同じで、性能寿命を迎えても、普通に張られたままで、外見的にはまるで変化がありません。ただ、乾電池は蓄えられた電力が消費されると、電球が付かなくなるからわかりますけど、ストリングには、そうした明確な印がないので「切れなければいつまでも使える」なんて思われてしまうんです。
寿命をまっとうし、死骸になってもボールに打ち付けられるストリングは可哀想。できれば、完全に寿命が途切れないうちに、お役御免してあげて、新しいストリングに張り替えてあげてください。
筆者 松尾高司(KAI project) 1960年生まれ。試打したラケット2000本以上、試し履きしたシューズ数百足。 おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー。 「厚ラケ」「黄金スペック」の命名者でもある。 |