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新品ラケットへの振動止め無条件装着に「ちょっと待った!」

現代ラケットの振動対策は進んでいる。まず「ナシ」で打ってから判断

昨今、プロ選手が「ストリングの振動止め」を装着するのを見て、
「かならず付けなきゃいけない」ものと勘違いしている方がとても多いですが、
あれはプレイするのに「不可欠」な道具ではありません。
むしろプロ選手の間では、「インパクトの感覚がボケる」と、
振動止めを使わないプレイヤーのほうが圧倒的に多いですね。

もちろん愛用するプレイヤーもいますが、振動止めが抑えてくれるのは「あくまで『ストリングの振動』だけ。
インパクトの衝撃を緩和してはくれるものではない」ということを忘れないでください。

「振動はすべて悪いもの」と勘違いする方がいますが、プレイヤーにとって『振動は大切な情報』なのです。
インパクトによる振動は、
ボールがストリング面の「どこに」「どんな角度で」「どのくらいの強さで」当たったかの情報となって、
脳へ伝えられます。
プレイヤーはその情報を元に、次のショットへ向けて対処するのです。

インパクトは、かならずストリングとフレームの両方に振動を発生させます。
フレームの振動は、ストリングの振動とはまったく別のもので、いろんな振動が重なり合って発生します。
Aという振動にBという振動が加わり、きれいな振動波に、細かな振動波を加えてしまう。
それを「雑」と感じます。

Aさんの声だけを聞きたいのに、BさんやCさんが重ねて喋ると、ごちゃごちゃになって、
Aさんの声が小さくなるわけではないのに、聞こえづらくなって、判別できなくなる。
(脳が自動的に総合ボリュームを絞るからです)
このとき、それぞれだけ聞けばきれいに聞こえるはずのBさんやCさんの声は、「雑音」と言われてしまいます。

「振動止め」は、残したい情報のボリュームもひっくるめて抑えてしまうようなものです。
手に伝わる「じつは必要な情報」までも鈍くして、届かなくしてしまう「鈍感器」です。
ある意味で『麻酔』に近いですね。
必要な場合もありますが、検査もしないでいきなり麻酔を投与してはいけません。
必要な感覚まで麻痺してしまいます。

各振動はそれぞれに「情報」を持っていて、
プレイヤーが「どれを知りたいか?」によって、必要か? そうでないか? の割り当てができます。
ラケットならば、「しなり」を伝える振動と「ねじれ」を伝える振動が混ざり合っている中から、
どれを感じたいか? によって、必要・不必要が決まるというわけで、
人間の脳はそれを「経験」から察知することができます。
どんな振動があったときに、どういう結果となったか?を記憶していて、それが積み重なることで、
振動という情報が「打球の結果を見る前に」プレイヤーに把握させてくれるわけです。

ストリングに装着する、いわゆる「振動止め」は、
そうした「必要な情報」までスポイルしてしまうことがあります。
現代のラケットフレームは、さまざまなスタイルで振動対策設計がなされて、
不要な振動を減衰し、繊細な「必要情報」を残してくれるものが多数あります。
それらは、そのまま打ってもイイ……いやそのまま打ったほうがイイでしょう。

フレーム本来のフィーリングを確認せずに、最初っから振動止めを付けるのは、
繊細な味付けをした高級和食に、無条件にマヨネーズをぶっかけて食べるようなもの……。
新しいラケットを手にしたら、まず振動止めなしで打ってみて、どうしても必要と思ったならば、
いろんなタイプの振動止めを、お好みで着けてみることをオススメします。

筆者
松尾高司(KAI project)
1960年生まれ。試打したラケット2000本以上、試し履きしたシューズ数百足。
おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー。
「厚ラケ」「黄金スペック」の命名者でもある。

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