知っておかなければならない「振動止めの国際ルール」
振動止め装着の「個数」は自由。規制されるのは「装着位置」だった!
「振動止めシリーズ」の3回め。これまでの話で、振動止めは「あくまでストリングの『振動』だけを抑えるもので、インパクトの衝撃を緩和してはくれない」ということを知っていただけたと思います。ストリングの振動は、あって然るべき振動とも言えます。なんでもかんでも「除去してしまえ」というのは考えものですね。
ラケット開発者は、振動止めが装着されることを想定して設計しているわけではありません。彼らは振動の発生要因について熟知しており、素材の固有振動数はもちろん、フレームのどの位置に何をすればどうなるか? を知り、しなり、うねり、ねじれなど、あらゆる要素を計算したうえで設計図を完成させるのです。振動止めがなくても十分に快適であるようにという想いでラケットは作られています。「あのプロが付けているんだから、絶対に付けなくては」なんてことはありません。付けていないプロも多いですよ。
さて今回は、振動止めに関するルールの説明をしましょう。
みなさんはどんな振動止めを、どのように装着していますか?
じつは振動止め装着には、国際ルールで定められた明確な規制があるのです。
まず「装着できる数について」ですが、じつは「何個付けても問題なし」なんです。そんな人はいないでしょうが上下左右に10個付けても違反ではありません(ただ、とても重くなることはご覚悟ください)。
規制を受けるのは「装着位置」です。
ルールでは「ストリングが編まれている範囲の外側に装着すること」とされています。つまり「上下左右のいちばん外側のストリングよりも外側」ということです。その際、振動止めがいちばん外側のストリングに接触していてもかまいません。
テニスラケットでは、ストリングが編まれている部分が有効な打球面と考えられ、そこでボールが打たれることを前提とされています。「それより内側に装着すると、有効な打球に振動止めという突起物が接触して、意外な弾き方をするから」という理由で、振動止めなどの装着物が、その範囲内にあってはならぬということです。テニスのルールは終始一貫「予期せぬ結果を生み出すものは認めない」という精神ですから、当然のことと言えますね。
でもこの規定を知らない方はたくさんいらっしゃいます。逆に「どこに付けてもいい」ということも知らず、漠然と「振動止めはストリング面の下のほう」と思っている方……念のため正確なことを知っておきましょうね。
筆者 松尾高司(KAI project) 1960年生まれ。試打したラケット2000本以上、試し履きしたシューズ数百足。 おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー。 「厚ラケ」「黄金スペック」の命名者でもある。 |
【写真解説】
・振動止めを装着できる範囲
左:正しい位置 右:ダメな位置
ルールで振動止めを装着してよいとされるのは「編まれたストリングパターンの外側」であり、それを守ればどこにいくつ装着してもOK。赤で示された範囲の中に入って装着してはいけない
・振動止めは何個付けてもよい
禁止されたエリアの外ならば、振動止めを何個装着してもよいが、多いほど効果が倍増するというわけではなく、鈍さが増す程度。反面、スイングウェイトが重くなって、振るのがたいへんになる(1個あたり平均3.6gあり、2個付ければ7g、3個付ければ11gも重くなる)
・上や横では振動止め効果は非常に薄い
振動止めは、縦ストリングと手の「間」に装着されなければ、振動伝達を鈍くする効果はほとんどない。トップに装着してもルール的には問題ないが、単に先端が重くなるだけで、効果はゼロに近い