ローテンションの可能性って?
意外にチャレンジできない「ローテンション」の限界
前回は「適正テンションと推奨テンション」の話をして、その表記が生まれたのは「破損時の保障条件」に絡んでいたことに触れました。しかし今日では、そうした意図でカタログに表記しているメーカーはほとんどありません。では、「適正テンション・推奨テンション」とは何を表現しているのでしょう?
各メーカーによって違いはありますが、おもに「この範囲内であれば、当ラケットの性能をうまく引き出せますよ」という意味と考えていいでしょう。同じフェイスサイズは、すべて同じ範囲に設定しているメーカーもあれば、同じフェイスサイズであってもラケットごとに微妙に範囲が違い「ここがいいよ!」というアピールをしているところもあります。
たとえば「100平方インチ」のフレームをざっくり見てみると、「45〜60ポンド」を中心に、幅を広くとったり狭くしたり、高めに広かったり、低めに広かったりという感じです。いちばん高くて65ポンド、逆にいちばん低くて39ポンドという表記がありますが、この範囲に疑問を持つ方はいらっしゃいませんか?
高いほうは「これ以上に強く張っても、打球の飛びが悪すぎる」「打球感が硬すぎる」と想像がつきますが、低いほうは「もっと緩く張ってはいけないの?」と考えることは不自然なことでしょうか。とくに、フルスウィングすることなく、タッチで打ち返すプレイヤーなど、柔らかい打ち味を好む場合が多いですよね。
ただ、ローテンションに興味があっても、「もしダメだったら、ストリング代+張り替え代の4000円以上がパーだもんなぁ」と躊躇ってしまう方が、じつは少なくないと思います。そういうときは、まずストリンガーに相談してみましょう。ストリンガーは数多くのお客さんの張り状況を把握し、数えきれないほどのデータを持っている、いわばデータバンクのようなものです。蓄積データの中にはローテンションで張った例や、お客さんの感想などがたくさん存在しますので、そこからアドバイスをもらうことができるでしょう。
「同じラケットフレーム+同じストリング」でも、張り上げテンションが違えば、それはもうまるで「別のラケット」です。ちなみに筆者は昔、「どのくらい違うんだろう?」と思い、テニス専門誌の企画として「同一フレームに同一ストリングを、10ポンド刻みで張ってみて、実打テストしてみる」というのをやったことがあります。
フレームは競技系モデルの薄ラケ(85inch2)で、ストリングはナイロンモノフィラメント。電動マシンが普及していなかったので、バネ式マシンで張ってもらいました。上から60ポンド・50ポンド・40ポンド・30ポンド・20ポンドで試してみたところ、60&50ポンドは想像どおりでしたが、40ポンドくらいから違いが明確になってきます。ボールとの接触時間が長く、振り切ると長さのコントロールがかなりむずかしくなります。
そして30ポンド……、まだイケます。スウィングは小さくなりますが、相手打球に合わせてプッシュするように打てば、それなりに使うことはできるのです。まだ厚ラケ・中厚など存在しない時代でしたから、力を使わずに飛ばすには、張り上げテンションを落すことで対応することができると確認できました。
しかし……20ポンドを打ったとき、明らかな違和感が発生! ハイテンションでは「ガチンッ」「ビィ〜ン」で、徐々にマイルドになり、30ポンドでは「ふわっ」という感触だったのが、20ポンドではいきなり「グワングワン」と、きわめて大きな振動を感じたのです。フレームの振動とはまるで違っていて、ストリング面自体が大きく波打つ感じで、とても使えません。乗せるように打っても、やはり大きな違和感はなくならないのです。
当時のバネ式マシンでの数値設定ですから、現在の電動マシンで「-10ポンド」に換算。ただストリング面の大きさが「85→100」とするとプラスマイナスで、意外に近いんじゃないかなと思います。JRSAの経験豊かなストリンガーも、それぞれにデータを持っていると思いますので、ローテンションに興味をお持ちの方は、ぜひお近くのJRSAメンバーのいる店で相談してみてください。あなたのテニスに、新しい世界が切り拓かれるかも!
筆者 松尾高司(KAI project) 1960年生まれ。試打したラケット2000本以上、試し履きしたシューズ数百足。 おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー。 「厚ラケ」「黄金スペック」の命名者でもある。 |